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東京地方裁判所 昭和35年(タ)78号 判決

判  決

本籍北海道札幌市苗穂町四三番地

住所東京都

原告(反訴被告)

小林美代子

右訴訟代理人弁護士

藤井暹

右復代理人弁護士

林彰久

国籍韓国

住所東京都荒川区南千住一丁目六一番地

被告(反訴原告)栗原久三こと

金煥祚

右訴訟代理人弁護士

小崎恭人

右当事者間の昭和三五年(タ)第七八号離婚請求同年(タ)第三二五号反訴、事件につき次の通り判決する。

主文

原告と被告とを離婚する。

原被告間に昭和二七年一〇月二日に出生した長女小林淑恵に対する養育を行う者を原告とする。

反訴原告の請求を棄却する。

訴訟費用は本訴の分は被告の、反訴の分は反訴原告の負担とする。

事実

原告、反訴被告(以下単に原告と表示する)訴訟代理人は、本訴につき、主文第一、二項同旨及び訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、請求の原因として

一、原告は昭和二五年頃北海道札幌市なる原告の実父小林豊作に被告、反訴原告(以下単に被告と表示する)が間借中同年秋被告と事実上夫婦として同家に於て同棲するようになり、昭和二六年一〇月に被告は職を求めて単身上京し、次で原告も昭和二七年一月に上京し、両者は東京都荒川区三河島に同居し、同年一〇月二日両者間に長女淑恵が生れ、同月一八日に東京都荒川区長と対し両者の婚姻届を了した。

二、然るに被告は昭和三一年春頃オートバイ窃盗を犯した為茨城県龍ケ崎市で勾留され、同年七月一八日に水戸地方裁判所龍ケ崎支部で懲役四年に処する旨の判決を受け控訴して東京高等裁判所で控訴を棄却する旨の判決を受け、右有罪判決が確定し、昭和三一年一二月から右刑の執行を受け、昭和三四年一二月一七日に仮出獄となつたが、その関原告は内職をしたり、料亭の女中などをしてその収入で一家の生計を維持し、尚被告が右刑事事件の為負担した借金の返済をした。

三、被告は元来短気、狂暴、怠惰であつて、辛抱強く働く意欲なく、思惑的な金儲けを夢見るような性質であり、家庭外では非常に社交的であるが、家庭にあつては極めて横暴我儘であり、上京以来原告が被告から受けた暴行の主要なものを挙げれば、

(イ)昭和三〇年夏頃被告に殴られて肋骨を折つた。

(ロ)同年秋頃被告に殴られて流産した。

(ハ)同じ頃被告は原告う頭を柱にぶつけ、又原告の頭髪を切取り、その為原告は数ケ月間外出することができなかつた。

(ニ)昭和三四年一二月一七日の仮出獄後は被告の狂暴性が益々激しくなり、同月二七日原告は頭部を被告に殴られ、頭蓋骨陥没による脳震蕩を起し、その為東京都荒川区南千住一丁目二番地三ノ輪病院に入院治療を受けるの余儀なきに至つた。

等である。尚原告が右三ノ輪病院を退院した後も被告の暴行は続き、原告は被告から刄物を持つて追廻されたこともあり到底被告と同居することには堪えられなくなつたので、昭和三五年二月下旬身の安全の為やむなく被告の許から姿を消し某所に逃避して現在に至つている。

四、原告には昭和一〇年一二月四日生れの小林とみ子、昭和一五年三月二一日生れの小林とし子なる二人の妹があるところ、被告は

(イ)昭和二九年八月単身札幌市の原告の実家に行つた際当時同市三越百貨店の女店員であつた右とみ子と肉体関係を結び之を東京に連れ出し、昭和三一年春龍ケ崎市で勾留されるまで右関係を続け、

(ロ)昭和二七年一〇月頃右とし子を東京に連れ出し、当時小学生であつた同人を姦淫し、その後龍ケ崎市で勾留された昭和三一年春頃迄同人と肉体関係を続けた。

五、被告の国籍は韓国であり、法例第一六条により原被告の離婚は夫たる被告の本国法なる韓国の法律によるべく、昭和三五年一月一日施行の同国民法附則第一九条によれば本訴離婚事件には右韓国新民法が適用されるべきところ、前記三及び四の事実は原告にとり同法第八四〇条第六号にいわゆる婚姻を継続し難い重大な事由に該当すると共に、日本民法第七七〇条第一項第五号所定の場合にも該当し、又前記四の被告の行為は韓国民法第八四〇条第一号にいわゆる不貞行為に該当すると共に日本民法第七七〇条第一項第一号にも該当するから原告は本訴に於て被告との離婚を求め、尚両者間の未成年の子なる前記長女の養育は法例第二〇条により父なる被告の本国法なる韓国民法により定められるべきであるところ、叙上の事実関係から見て右養育は原告に当らせるのが適当であり、被告に当たらせることは不適当であるから、前記韓国民法第八三七条第一項、第八四三条により右養育を行う者を原告とする旨の裁判を求める。

と述べ被告の抗弁事実を否認した。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として

原告の請求原因一の事実を認める。

同二の事実中原告がその主張の頃内職をしたり、料亭の女中をしたりして一家の生計を維持し、又被告の借金の返済をした事実を争い、その余の事実を認める。

同三及び四の事実、並びに五の事実中の長女淑恵の養育には原告が当るのが適当であつて、被告が当るのが不適当であるということを否認する。

被告は北海道から上京後原告の父小林豊作の債務数万円を同人に代つて弁済する為苦労し、前記窃盗も原告の実家を救う為犯したものに外ならないところ、原告は被告がこのように原告及その実家に尽した恩義を忘れ被告が刑務所に於て服役中東京都杉並区和泉町三三〇番地なる福田宏年、同都大田区中蒲田なる田島利夫その他二、三の男性と不義密通をし、被告が出獄後これ等の相手との関係を続ける為謀略をめぐらして本訴離婚請求をしたのであつて、このような原告の側の不行跡を措いて単に被告の側の事由だけを原因とした本訴請求は許さるべきものではない。

と述べた。

反訴につき被告訴訟代理人は被告と原告とを離婚する、原被告間に昭和二七年一〇月二日に出生した長女小林淑恵の親権者を被告とする、原告は被告へ右小林淑恵を引渡すべし、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、

一、被告は韓国人であるところ、昭和二五年秋頃札幌市で妻なる原告と事実上夫婦として同棲し、ついで昭和二七年一月以来は東京都荒川区三河島町で同棲し、同年一〇月二日両者間に長女小林淑恵が出生し、同月一八日原被告は東京都荒川区長に婚姻の届出をし、尚昭和三〇年二月九日東京都墨田区長に右長女を認知の届出を了した。

二、而して本訴に於て被告が主張する通り原告は被告が昭和三一年一二月から昭和三四年一二月一七日まで刑務所に於て服役中東京都杉並区和泉町三三〇番地なる福田宏年、同都大田区仲蒲田なる田島利夫及びその他二、三の男性と不義密通をし、被告が出獄後はこれ等の相手との関係を続まる為謀略をめぐらして本訴の離婚請求をしているのである。

三、右二の事実は被告にとり被告の本国法たる韓国民法第八四〇条第一号及び第六号の場合に該当すると共に日本民法第七七〇条第一項第一号及び第五号の場合にも該当するから、被告は原告に対し反訴として右事由に基き原告との離婚を求めると共に、韓国民法第八三七条第二項、第八四三条、第九一三条、第九一四条に従い長女淑恵の親権者を被告とする旨の裁判及び現に原告の許にある右長女の引渡を求める。

と述べ、

原告訴訟代理人は被告の反訴請求を棄却する、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

反訴請求原因一の事実を認める。同二の事実中原告が被告主張のように不義密通をしたこと、及び原告が右不義の関係を続けんが為被告との離婚を求める本訴を提起したことは否認する。

と述べた。

立証(省略)

理由

(証拠省略)によれば、本訴請求原因の事実、反訴請求原因一の事実が認められる。

次に(証拠省略)によれば、本訴請求原因二乃至四の事実が認められ、(中略)右認定を左右するに足る資料は存しない。而して被告は本訴の抗弁及び反訴請求原因二として、原告が東京都杉並区和泉町三三〇番地なる福田宏年、同都大田区中蒲田なる田島利夫及びその他二、三の男性と不義密通をし、尚その関係を継続しようと謀つている旨主張するけれども、(中略)右被告主張のような事実の存しないことが認められるから右主張は認容することができない。

被告が韓国人であることは前認定の通りであるから法例第一六条により原被告の離婚は夫たる被告の本国法なる韓国法によるべく韓国民法によれば右認定に係る本訴請求原因三及び四の事業に原告にとり同法第八四〇条第六号にいわゆる婚姻を継続し難い重大な事由に該当すると同時に日本民法第七七〇条第一項第五号所定の事由にも該当するものと解されるから、右事由は基く原告の本訴離婚請求は正当なるものとして認容しなければならない。尚原被告の未成年の子なる長女小林淑恵の養育問題は父なる被告の本国法たる韓国法によるべきことが法例第二〇条により明であるところ、叙上認定の事実に徴すれば右養育には原告をして当らせることであり、被告に当らせることは不適当と認められるから、韓国民法第八三七条第一項、第八四三条により右養育を行う者を原告と定めるべきである。

次に被告主張の原告の側の不貞行為の事実の認め難いこと前記の通りであるから、之に基く反訴請求はすべて認容することができない。

よつて民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決した。

東京地方裁判所民事第一部

裁判官 高井常太郎

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